陸誌から
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中村和弘
2024年2月号
<象形文字>
鳥糞の白さも今日の淑気かな
青空のまわりは暗し野梅咲く
兵馬俑を紅く染めたる初日かな
象形文字に神の字は無し初山河
山津波隆起陥没初山河
東海の松風も入れ七草粥
裏山に狐鳴く夜の母恐し
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2024年1月号
<孤 鶴(こかく)>
親不知子不知の道石蕗咲けり
サバンナの象の鼻痩せ冬旱
水没林の骨のごとくに冬日かな
冬眠の熊に宇宙の底光り
湾岸にタンク連り冬ざるる
船長室の神棚に揺れ注連飾
初春や檻の孤鶴の汚れおり
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2023年12月号
<親子熊>
大熊座小熊座消えて酷暑かな
人界を疾走したり親子熊
七尾湾の夕日を纏い泡立草
鉱石の玉虫色に冬に入る
濁酒の上澄み青し末枯るる
高野聖の道に群立ち泡立草
大仏の汚れ斑に冬日かな
陸・この20句 中村和弘選
2024年2月号
ペガサスまで黄金のさざ波芒原 岩崎 嘉子
延暦寺砦のごとし冬満月 吉本のぶこ
武蔵野へ頬紅おいて冬はじまる 瀬間 陽子
落葉掻き二尺の蛇を掻き出しぬ 山本高分子
猫達の凝視する窓小鳥来る 小竹ヒサ子
満ち足りし風の色なり吾亦紅 十亀カツ子
おにぎりは神の形に初時雨 上田 桜
古墳より眺むる街の冬ぬくし 牧 ひろし
鳥海山の裾の晩菊ひとつかみ 大類 準一
みどりごを忘れぬ乳房雪もよい 佐々木貴子
グラタンの焦色冬の来たりけり 安住 正子
くれないと「紅」を読むとき雪解風 藤川 夕海
オオカミ像見入つてからの秋思かな 前塚かいち
裏山は日と風のみち木の実降る 佐々木玉枝
流木を研ぐ海鳴りや神無月 別所 弘子
銀色の満月草に潜みをり 清水山楂子
玉砂利にどんぐり混り宮参り 西村 敏子
色変へぬ松はめでたくつまらなく 小長光吟子
鶴亀の力石撫ぜ末枯野 正木むさを
実石榴の口開けて居りサロメ舞う 平 仲子
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2024年1月号
桃は赤児メロンは母のゐるところ 大類つとむ
塵芥寄する渚さの淑気かな 吉本のぶこ
彗星の先つぽさみし千歳飴 瀬間 陽子
痩せ秋刀魚みんな黙して食すなり 小竹ヒサ子
温室に筒抜けの天秋の声 十亀カツ子
無人の世桂紅葉の薫りたり 小川 葉子
秋の野のサイロひとつに暮れにけり 牧 ひろし
オーロラ
極光の北海道に馬鈴薯を植ゆ 今田 克
動くもの見えぬ牧場や草の花 田中 眞青
みちのくの畦によろけて虫時雨 小保方京司
この檻褸は緤々夫人の浴衣帯 木村 詩織
自ずから水澄む水となりにけり 多摩川 州
オオカミ像見入ってからの秋思かな 前塚かいち
庭園に土橋石橋小鳥来る 根岸三恵子
鰯雲めがけ跳び込むスケボーダー 北原 千枝
石蹴りの宇宙は地べた草紅葉 山田和歌子
秋澄むや詩集は白き鳥と来る 別所 弘子
夜田刈を終えて川面のビル明かり 伊予 守
白露かな衣桁にひらく能衣裳 小長光吟子
篠笛の背すじ調う秋祭 平 仲子
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2023年12月号
晩年や通草を食ひしことかくす 小菅 白藤
ここにしか来ぬ満月と青蛙 大類つとむ
初蟬のひと鳴き襤褸捨ててゆく 岩崎 嘉子
屑籠のあいまいな位置星月夜 瀬間 陽子
ヒトデ乾く砂場浦島保育園 佐藤 禎子
まつ黒な液体のごと羽蟻湧く 石川真木子
左折したばかりに続く真葛原 大野和加子
視力表指す看護師の声涼し 荒堀かおる
鳥渡る光乏しき国多し 米川五山子
片鶉そつくり返り鳴きにけり 秋元 道子
合掌の指先に乗せ今日の月 鎌田 史子
鶴翼の崖に湧く滝群れて落つ 田中 眞青
彼岸花墓標のごとくデンデラ野 大瀬 響史
星月夜出てゆく船に手を合わす 小保方京司
摘む草の束より落ちて秋の虫 中村 穂
秋の雨模型の家に棲む少女 古川 章雨
秋めきて神職の膝軋みけり 松浦 廣江
人を殺める当てはなけれど鳥兜 谷田 貝梓
竹の花まだ見もせずに地球病む 小村 寿子
牧牛のつけし径あり草の花 安住 正子
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大石雄鬼
2024年2月号
<冬の港>
猫実川汗のやうなる鯊およぐ
署名には冬の港のたたずまひ
顎よりも硬く真冬の船箪笥
甲板の匂ひはひらいてゆく白菜
五百羅漢の頭のなかでコート脱ぐ
心臓はまだうす暗く松の内
松の内パジャマの袖のちぢこまる
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2024年1月号
<封 筒>
靴墨をのろのろのばし天の川
封筒のふくらむやうな運動会
秋夕焼にくひこんでゐる父の顔
蟋蟀の胸のちひさな国家かな
菊咲いてもう動乱の匂ひする
飾り窓を棒のやうなる冬の虹
カーテンの痣のうっすら冬菫
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2023年12月号
<夏の霧>
水葱咲くや魂を覗いてゐるごとく
夕焼になりかけ爪が伸びてゐる
瀧見茶屋より足が出て帰りけり
焼肉のたれのごとくに昼寝する
ひとりでは汚れてしまふ夏の霧
豚肉の小さくなつて星流る
月影のやうな男は印象派
【備考】
※通常、当月末までに掲載します。
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