陸誌から
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中村和弘
2023年 3月号
<熱水>
人間を悼むが如く椿落つ
てのひらに火種ころがし初ざくら
花喰う鳥仰ぎておれば西行忌
深海魚どれも巨眼ぞ玉の春
砂浜に凹凸生れ雨水かな
鉄砲雨草木に刺さり亀鳴けり
海底に熱水湧きて雛まつり
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2023年 4月号
<神の隙>
蒲公英の原野に痕を装甲車
一族の絶えたる跡の藪椿
養鰻池の水面をおおい春の塵
列島に火口連なり桜咲く
神の隙菜虫は蝶となり消ゆる
豚小屋のにおいを纏い桃咲けり
聞ゆるは震災の日の卒業歌
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大石雄鬼
2023年 3月号
<筋肉>
空を見て原告団の着ぶくれる
どよめいてゐる筋肉や鯨来る
江戸川のはらはらたまり冬雲雀
マフラーの白の恍愡川光る
おのが目を焦がして冬の川鵜かな
北風のぶつかる街や胴長く
心臓の汚れのやうに梅咲けり
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2023年 4月号
<夜空のさき>
岬のやうな顔を近づけ仏の座
原生林の影の咲きだす涅槃かな
青年のぬるりぬるりと涅槃寺
梅咲きて足裏のほぼ平らなり
眼がこぼれさうな犬なり春の虹
大鷭は夜空のさきを齧りけり
筒鳥や木の葉のやうな父の膝
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陸・この20句 中村和弘選
2023年 3月号
晩年や素直に厚着して起きる 小菅白藤
歳晩や街に只管赤い薔薇 稲村茂樹
呼べば来る花野の馬のうち揃い 岩崎嘉子
実南天たわわ深草藪之内 佐藤禎子
消えず在る古りし土嚢や十二月 加藤明虫
午前の青空寒林に集中す 小竹ヒサ子
堆積地層に風の筋あり種を蒔く 十亀カツ子
高みにて皇帝ダリア密々たり 大野和加子
乾隆が活力得たる鹿炙る 今田 述
剌青の漢と沈む初湯かな 大類準一
水没の雪が見えたり雪の都市 佐々木貴子
木枯のつまづいてゐる音がする 古閑容子
糶籠に伊勢海老跳ねて活気づく 北原千枝
海山の光日の丸みかん熟る 阿部雅子
冬凪ぎて恋人達の砂の城 土岐詳恵
十二月八日生れの名は和子 松川和子
アヤソフィヤの塔を旋回冬かもめ 根岸三恵子
流木に眠る貝殼冬怒濤 松本清美
鰤起し一の鳥居は海の中 安住正子
部屋どんどん骨になりゆくぱたん雪 三宅桃子
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2023年 4月号
道行きや鯨は海へためらわず 瀬間陽子
蓮植うる水にどろんと白き筋 加藤明虫
濃霧はれ戸田港長き砂嘴のばす 石川真木子
千万羽鶏埋めし日の寒卵 今田 述
鎧窓の石の洋館冬ともし 十亀カツ子
ひとさじは七種粥の離乳食 上田 桜
耳元を雀の羽音雪晴るる 堀 尚子
地吹雪を吸い込む空の青さかな 牧ひろし
全身の皮膚癌病めば花とせむ 今田 克
純白の風ふひてゐる雪野かな 大瀬響史
冬の陽のブーケのごとく幼な抱く 佐々木貴子
土偶男子勢ぞろいして星新し 及川明子
塩鮭に蝦夷の荒縄かくも佳し 多摩川州
啓蟄やこぼしてさつと拭く光 藤川夕海
墓地の崖さざん花重き身を降らす 保坂純子
遠山に浮く観覧車初明り 佐々木玉枝
寒晴や砂州に駱駝のモニュメント 根岸三恵子
ニ羽の鷹松の緑と遊びけり 小田桐妙女
色を発し柳枝触れ合う睦月かな 内海 新
床板を蹴破るごとし寒稽古 文字山不路男
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【備考】
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