陸誌から
5, 6, 7月号 (このページの下にバックナンバーへのリンクあります)
中村和弘
2023年7月号
<白鳩>
スコールのこちらは晴れてカンナ燃ゆ
セスナ機のふわりと発ちて椰子実る
蕗の葉の打ち重なりて殉教碑
白壁のほろほろ崩れ風死せり
ライオンは大地に同化風死せり
日本に無人島ふえ昭和の日
白鳩ばかりふえし社や昭和の日
源流を持たぬ我らに河鹿鳴く
紫陽花の毬を殴ちつつ下校の子
紫陽花の茂み覗けば無縁仏
姫川の翡翠ひろえば河鹿鳴く
-----------------------
2023年6月号
<蒙古斑>
拳玉の上にかぶさり雲の峰
とらばさみ
虎挾壁に吊るされ雲の峰
鉱石の燐光発す緑の夜
か
ダム底の石垣現るる夏の光げ
家猫の欠伸片方に端居かな
牛の舌のそりと伸びて春暑し
みいら
蒙古斑木乃伊に有りて黄砂かな
-----------------------
2023年 5月号
<一本松>
うららかに不発弾などあらわれる
眼球の血管覗く桜の夜
よ な
甘藍に黒き穴あけ火山灰降れり
鰐皮は玉虫色に桜咲く
恐龍の仔らは小し雛祭
闘鶏の血溜黒き夜明かな
一本松は風の姿に遍路道
-----------------------
大石雄鬼
2023年7月号
<白シャツ>
ふらここの黒き雫をつかみたる
時の日の踵は嵐めいてゐる
がつしりとした麓からかたつむり
糊代の乾いてかつて繭の村
夏鴨の腹を映して川を翔つ
白シャツを棲のやうに干す男
シャワーより顔のはづれて夏至になる
-----------------------
2023年6月号
<風神の肩>
顎紐のだらりと垂れて抱卵期
磯巾着敷居のごとくひろがれり
サンダルのひつかかりたる根分かな
米店の人のゆがめば燕来る
柿若葉ふにやりふにやりと子が歩く
風神の肩のさびしく野茨咲く
昼咲月見草をほのかな手でつつむ
-----------------------
2023年 5月号
<父の顎>
残雪のなかにひつそり父の顎
初蝶のざわざわレッスン場暗し
鳥肌をたてて桜は谷に散る
悪の道のきれいにありし遅日かな
つげ櫛は月の出のやう八重桜
人生の光こぼれて海胆を喰ふ
水門が裸のやうに立ちふさぐ
-----------------------
陸・この20句 中村和弘選
2023年7月号
【○ 印は、特に秀句】
大声で所在確かむ花の山 稲村茂樹
○ 乳腺に応へてゐたり桃月夜 淺沼眞規子
漆黒の夜よりひろふ雛あられ 大類つとむ
碑の裏は薬莢の香の桜まじ 瀬間陽子
貝ボタン取れそう春のなみだ雨 石川真木子
滑走路傍の小型機花曇り 十亀カツ子
白昼の壁に穴あり蜥蜴出づ 上田桜
○ 満ち足りて見る人もなき花楓 秋元道子
○ 海女の伊豆入江毎なる栄螺棘 今田克
○ 鴟尾の金列柱の丹に春日照る 田中眞青
はみだして空屋のポスト春立てり 徳竹三三男
○ 春の河闇に沈みし森を映す 石堂つね子
電柱のたいくつ抱へ花曇 中村穂
○ 乾く土蝶ぎくぎくとさ迷えり 保坂純子
花冷えの墓地を彷徨うポリ袋 古川章雨
解剖台に象形文字や黄砂降る 根岸三恵子
朽ち折れし遺愛の牡丹ひこばゆる 田中三桃
○ 黄水仙あちこちに島形成す 阿部雅子
恋の猫草を纏いて現わるる 錦戸正行
啓蟄や戸から蹴り出すサッカーボール 長谷川佐知子
-----------------------
2023年6月号
蘖に風は巨木の頃の風 瀬間陽子
一灯の弱りを端に蛙鳴く 加藤明虫
出土の馬に銜痕のあり黄砂降る 十亀カツ子
歌麿の墓の白々花三分 小川葉子
三月のアルトサックス慟哭す 堀 尚子
春雨やもう吾が身へは鞭打たず 荒堀かおる
朝刊と落花一片配達す 牧ひろし
飛ぶ鳥を落とす勢い芽吹山 渡部洋一
一本ずつ生春巻の春の色 鎌田史子
風紋へ米ながしゆく日永かな 佐々木貴子
五位鷺の置物立ちに日脚伸ぶ 徳竹三三男
七千歩の先は地獄の春の山 本多洋子
捨て舟の腹を哂して草萌ゆる 北原千枝
柤父の指一本握り雲雀見る 保坂純子
春眠やふるさとの山いや高し 佐々木達治
声出せば溶けだしさうな春の月 桜田花音
啓蟄や青大将は痩せてをり 伊藤岳栄
アマゾンの箱だけ巨大春寒し 小橋めぐみ
七石の大釜軒に雛の家 百目鬼英明
半眼の魚打ち上ぐ春の浜 中嶋和臣
-----------------------
2023年 5月号
節分や臍の緒のある四畳半 瀬間陽子
大方は裸足絵巻の民に春 佐藤禎子
大寒やコトンと音し訃報来る 山本高分子
七草粥派手に噴かせし運いかに 大野和加子
福寿草いつもの道の神々し 熊谷勅子
ご じ ん か
春暁の御神火島日の出たくましく 今田 克
木枯や影巨きなる岩を産む 石堂つね子
バレンタイン向うで犬が尻尾ふる 及川明子
梅まつりてかてかとなる牛の鼻 北原千枝
跪く男のをりし針供養 松川和子
おさ
跳ねさうな力を按へ兎抱く 小川七穂
ビルおほふ幕に声あり冴返る 土岐詳恵
保育士の全姿で駆けて春立つる 保坂純子
満月臘梅道行く人を照らしけり 宇佐川うさこ
降る雪や母の遺骨はわずかなり 古川章雨
風音に微かに震え蟬氷 佐藤かほる
早梅や水の巡りし神の宮 池﨑昌子
寒卵罪あるごとく積まれをり 白鳥青羽
渦を巻く花の底から鴨の声 佐藤ハナ
キツツキの穴ある枯木残しをり 中村 曠
----------------------------------
【備考】
※通常、当月末までに掲載します。
※ルビがある場合は、WEBの体裁上、かっこ( )で表わすことがあります。
※本サイトの俳句は、陸誌から手作業で入力しています。
もし入力ミス(誤変換など)、もしくはその懸念があれば、本サイト管理人までお知らせいただければ幸いです。