陸誌から
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中村和弘
2023年 2月号
<魔王>
白壁に車軸の影を初日かな
屋根石の一つ一つに初日かな
中空に蜘蛛の木乃伊か冬の月
北溟にいつもロシアぞ寒波くる
香具山に鳶の争う初御空
魔王てふ紅梅咲きて村沈む
天窓にふくら雀の腹白し
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2023年 1月号
<花の春>
上野動物園
黄落へ虎の頭骨据えてあり
閘門の蘚青々と冬に入る
寒雀鼠のごとく走りけり
少年の頭踏むかに寒烏
寒垢離や烏数羽が喚き翔つ
冬蜘蛛をあつと掃除機吸いこめり
駝鳥一羽が韋駄天走り小春かな
人間の隙間に蜘蛛の冬眠す
海中に島そだちつつ初日かな
核塵は地底に蔵し花の春
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大石雄鬼
2023年 2月号
<鎖骨あり>
よく晴れて桜紅葉のぶつかり来
卓袱台の脚をのばせば冬ざるる
生家より出でがらがらと大焚火
雪の夜をごくんごくんと男来る
のどかな背に雪の末路の降りてくる
狐火のかたむきながら鎖骨あり
クリスマスイブの港の草伸びし
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2023年 1月号
<夜中>
イソップ童話長月の胡椒振る
三日月のたむろしてゐる九十九塚
身体のほのかな灯り鶴来る
寒月の沈みしやうな皿がある
着ぶくれし人のあつまる荒物屋
末枯れてわが葉脈の太かりし
寒鯉の夜中のやうな匂ひかな
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陸・この20句 中村和弘選
2023年 2月号
万太郎の書のやうに紙魚走りけり 大類つとむ
湯のたぎる音に郷愁冬となる 永井アイ子
塵取を持つて聖夜の暗がりに 吉本のぶこ
秋の舟うらがえされて木のからだ 瀬間陽子
ヒマラヤの岩塩朱鷺色良夜かな 石川真木子
加湿器の青き目玉や秋澄めり 小竹ヒサ子
兜煮の鯛の目玉もクリスマス 上田 桜
さまよえる糺の雪の蒼さかな 小川葉子
秋空を亀掻くビルの水族館 今田 克
透きとおりそうな柿より夜のくる 佐々木貴子
黒姫山をコスモス包む妻あらず 徳竹三三男
秋風を補聴器がうけ尚孤独 本多洋子
鉄鉢のかくも冷たきしぐれかな 猪狩鳳保
燻し銀の屋根連なれり冬満月 阿部雅子
雪降るや風の輪郭描きつつ 桜田花音
息つぐ度プールの窓に鰯雲 伊藤岳栄
補聴器を外せば消える虫の闇 清水山楂子
芋掘りの黒土高く飛びにけり 池崎昌子
上積みの落葉楕円の風の面 内海 新
助手席に光さし込む神無月 清水りま
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2023年 1月号
徘徊の掟のやうに芒持つ 小菅白藤
大陸の突端は竜砧打つ 瀬間陽子
交響曲レニングラード冬に入る 山本高分子
長城も鬼城も聳え天高し 今田述
ゴルバチョフと同じ歩行器秋の声 小木曽あや子
長き穂を持て余すかに古代米 大野和加子
鵙鳴いて全山はたと静もれり 牧ひろし
栗握る父の手さらに丸くなる 鎌田史子
月光の輝く神戸二泊する 大久保八千代
水族館
秋うらら餌づけの男肢体美し 本多洋子
秋霖雨前髪眉を隠すなり 石堂つね子
目をつむることなく鹿の角切らる 猪狩鳳保
ビニールに透けたる雨の帯祭 北原千枝
かたまりて鶏頭流る車窓かな 古川章雨
漆黒の海亀の町星飛べり 土岐詳恵
朝日浴び生まれたてなる松ふぐり 平 惠
爽やかやアンモナイトのシャツ走る 宇佐川うさこ
柿の樹より邯鄲歌ふ夢路かな 伊藤岳栄
ドビッシー黒豹吠える十三夜 瀬間ろ敏
馬追の髭まで緑そよぎけり 百目鬼英明
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【備考】
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